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記事2003年12月13日 1919号 (6面) 
教育の情報化推進セミナー 2003
財団法人日本視聴覚教材センター
時代の要請に対応する情報教育

早稲田大学 本庄高等学院教諭 半田 亨氏


立教小学校教諭 石井輝義氏

  小・中・高校における新学習指導要領の実施を受け、財団法人日本視聴覚教材センターでは、今年の夏、東京・市ヶ谷の私学会館で「教育の情報化推進セミナー2003」を開催した。今年のセミナーでは情報化にとって避けて通れない「著作権」問題が基調講演で取り上げられたほか、学校における情報教育と情報化について四つの事例発表が行われた。ここでは基調講演と二つの事例発表の概要を報告する。(編集部)


達成感の高い授業を目指して/早稲田大学本庄高等学院教諭 半田 亨氏

生徒が納得できる評価を
達成感には苦労や努力が必要


 わが校では「情報B」を選択して、一年次に一単位、二年次に一単位、履修させています。教科書は独自の教科書を先に作ってありましたので、「情報B」の教科書にはこだわっていません。一年次、まず生徒全員にアカウントを配付し、パスワード管理や使用の諸注意と、セキュリティーについて話し、メールのやりとりを訓練します。次にウェブ検索、サーチエンジンの使用について授業を行います。その後、パワーポイントによる自己紹介のスライドを作らせます。七月から十月にかけては、ワード(ワープロソフト)を使ったレポートの作成です。昨年のレポートのテーマは、「ハイテク犯罪」「情報バリアフリー」「ユニバーサルデザイン」などでした。これは自分たちの生きている情報社会を問い直す機会を与えたいという思いからです。次にエクセル(表計算ソフト)を中心として、データの整理と加工を行います。情報教育は、メディアリテラシーを切り口にしたいと考えています。また、本校は論文教育を重視していますので、客観的な資料づくりのための技術と、どのような視点で展開していかなければならないのか、を中心に一年生の授業を実施したいと考えています。二年以降は、Mathematica、プログラミング、ウェブ作成等を中心に授業を行う予定です。
 来年度、いまの一年生が二年生になったら「家庭科」と「情報科」のコラボレーション「自己探索」という授業を一単位設けることにしています。三年生では、一・二年でやった内容をさらに進めたいという生徒のために、「情報と文化」でメディアリテラシーを、「情報と映像」で画像処理、「情報サイエンスI」はビジュアルベーシック、ウェブ作成、プログラミングなど、「情報サイエンスII」はTCP/IPやルーター制御などネットワーク理論をやります。
 評価については、総体として実習に配慮したいと考えていますが、評価はなんのためにするのかと考えたとき、現在のような教育の転換期には、教師から生徒への評価を、生徒たちが生かしていく場を与えるべきではないか。コラボレーションやプレゼンテーションなどでは、実際には私の評価と生徒たちの評価という二つのデータを使っています。それを個々の生徒にフィードバックして、もう一度その評価を取り入れて生かす場を作り、そして最後の作品を再度評価するという二段構えで実施しています。
 では、達成感はどこから来るのか。生徒自身にとって得たものが多いことやそれが役立ったと感じられること、得られたものが自分の持っているものより高いレベルであること、また目的としているもののレベルが高ければ、簡単にそこまで行くことができないため苦労や努力が必要になる。
 それが達成感につながります。そのためには生徒が納得できるような評価をすることが必要だろうと思います。レポートの評価については、評価項目に従って評価をしてレポートに直接書き込んでいます。評価項目は、提出フォームの約束ごとに従っているか、内容(データの客観性、分かりやすさ、考察)、レイアウト・デザイン(図版、インデント、フォントの工夫等)、知的所有権への配慮の五つです。
 今年の前期「情報と文化」という三年生の授業では架空の雑誌づくりをさせました。できた作品を生徒たちが評価シートで評価し、それを、私を中継してレーダーチャートにして作品を作った生徒に戻し、プレゼンテーションの後で、今度はプロの方に来てもらってアドバイスをもらい、それらを基に作り直しをさせ、改善した作品をもう一度評価するという授業を行いました。
 ネットワークの時代で、他校とのコラボレーションや外国とのコラボレーションが簡単にできるようになりました。しかしこれからは、地域の有識者やプロ、NPO、警察などにさまざまなレベルの教育をしていただく方向で本校を開放していかなければいけないと考えています。


情報教育の時間確保と展開/立教小学校教諭 石井輝義氏

情報科の授業は全学年で開講
6年間で完結のカリキュラム


 コンピュータを活用した授業の展開として「情報科」の授業を平成十三年四月から開始しました。展開方法としては、一つの学期に二学年、週一校時での展開で、各学年十校時が目安です。実際には、一学期は二年生と六年生、二学期は三年生と五年生、三学期は一年生と四年生で情報科の授業を行っています。
 授業時間の確保については、一年生と二年生は生活科の時間を、三年生は理科および聖書科の時間を利用させてもらっています。四・五・六年生は、習字の時間を借用しています。
 情報科の授業は六学年すべてに開講し、カリキュラムは六年間で完結するものを作ろうと考えていますが、作成には最低五年間を要するということを学校に対して提案しています。
 要するに最初に始めた十三年度の一年生が、六年生になるまでの五年間に立教小学校が教科「情報科」をどのようにとらえていくのか、どのように情報教育を行っていくのかというのを考えていきます。つまり、実情に即したあり方を模索していく試行錯誤の期間であるととらえてください、と言っています。試行錯誤の期間が終わった後には、ある程度形を整えてその内容を発表していきます。
 情報環境については、立教大学メディアセンターのネットワークを利用していますが、物理的に異なった二本(三本)のネットワークがあり、子供たちが使う子供専用のLANと、教員が使うLANがあり、そのほかに外に向けて発信するための回線をもう一本外側に敷いて、セキュリティーを守っています。立教メディアセンターとは一〇メガの専用線で接続し、ルーターとプロキシ、ファイアウオールが入っています。切り替えを行えば一〇〇メガでIIJとの接続も可能になっています。
 情報科の目標は、一・二年生は慣れる・親しむ、楽しさを体験する、自己を表現(お絵描き)することを目指しています。
 三年生は情報リテラシーの準備、情報の多様性の認知、情報倫理(モラル)の修得、情報発信者としての意識の養成。
 四年生は情報リテラシーの基礎、情報の多様性の認知、情報倫理の修得、情報発信者としての意識の養成。
 五年生は、情報リテラシーの修得、情報の多様性の修得、情報活用能力の修得、情報発信者としての意識の形成。
 六年生になると、主体的な活動を行う、主体的な情報収集、主体的な情報活用能力の修得、情報判断能力の修得、情報発信者としての意識の明確化を考えています。
 具体的には、一年生はお絵描きとインターネット体験、二年生ではお絵描きとインターネットでの検索、三年生では自己紹介の作成、四・五年生は地理学習を行いますので国内旅行計画を作るという作業を行い、六年生では修学旅行の資料を作成してもらうことをやっていきます。授業で用いる主なソフトウエアは、キッドピクススタジオ2001、ひらがなナヴィ2・0、パワーポイント、ワード、エクセルです。
 情報科・情報教育の今後の課題ですが、同じ学年に同じ内容をやっていけばいいという段階ではないため、その点がいちばん大きな問題です。子供たちの情報提示能力のレベルが徐々に上がっていますので、それに応えていかなければならない。ルールやマナー教育も、さまざまな情報を扱っていくときの大前提となるため、どこでどういうふうに身につけていくのかをしっかりと考えていく必要があります。他教科との連携や情報科以外のコンピュータ室の利用も議論をしながら、われわれもそれに対応できる能力を持っていかなければいけない。
 個別評価については、授業で何か問いかけを行うとすぐに反応が返ってきますので、その反応に対してどういう応対をするかということで個別評価が可能になるのではないかと考えています。


基調講演「インターネット時代の著作権と学校教育」
前文化庁著作権課長 岡本 薫氏

「著作権」にはルールがあり
学校の先生はだいたいコピー自由


 著作権の基本は簡単です。「人がつくったものを無断で使ってはいけない」、それだけのことですが、これにいろいろなルールが付いています。
 著作権には「使用」と「利用」があります。見る、聴くといった知覚する行為は了解がいらない、これを「使用」といいます。それに対して、コンピュータでたくさんコピーして売るといった無断でやってはいけない行為のことを「利用」と呼んでいます。
 時代によってこの利用と使用の境目が変わってきます。いまや街中どこにいってもコピー機があり、インターネットにつながったパソコンや携帯電話をあらゆる人が持っているという、一億人がユーザーでありクリエーターであるという時代が、突然に来た。あらゆる意味で大過渡期、大混乱期の入り口に立っています。
 著作権についても、例えていえば、突然、一億人が車に乗り始めているのに、赤信号で止まるというルールをみんな知らないという状況です。早く赤信号で止まるというルールを教えてあげないといけない。これが著作権教育という課題です。
 著作権教育を、情報倫理、情報モラルといっていますが、著作権はルールであってモラルではありません。
 もう一つの大きな課題は契約です。例えば、インターネットからダウンロードした資料をプリントアウトしてコピーして会議で配付したとします。これは全部著作権侵害です。非常に不安定な状況です。これを安定化するためには作者が意思表示をすればいい。そのために作ったのが「自由利用マーク」(文化庁ホームページwww.bunka.go.jp/jiyuriyo)です。ですからお互いに意思表示をしてください。
 著作権は、知的財産権(知的所有権)の中に含まれ、保護期間は、国際的な基本ルールでは著作権を持つ人の死後五十年です。著作権にはいろんなルールがあります。実は、二年半ほど前から著作権者と利用者のそれぞれの立場をはっきりして、お互いに協議してやっていきましょうということを、文化庁で進めていまして、昨年は二項目、今年は五項目も法改正ができました。そういうことをどんどんやっていかなくてはいけません。
 ある学校の先生から、「著作権のために学校でコンテンツが非常に使いにくい。こういう状況はいつまで続くのでしょうか」という質問がありました。わたしの答えは簡単です。「そのことについてあなたは何か行動していらっしゃいますか。あなたが行動を起こさなければ何も変わりません」。著作権に限らず、先生方が一致して何かを考えるということが必要です。著作権は、著作者の権利を意味する著作権と、伝達者の権利である著作隣接権に分かれます。著作権はさらに著作者の心を守る「人格権」と「財産権(著作権)」に分かれます。また著作隣接権を持っている人は、条約のルールでは三つ、実演家、レコード製作者、放送事業者です。昨年からこの中に実演家の権利として人格権ができました。著作権のうちの人格権には「無断で改変されない権利」「無断で公表されない権利」「無断で名前の表示を変えられない権利」が含まれ、著作権には「無断でコピーされない権利」「無断で公衆に伝達されない権利」「二次的著作物に関する権利」があり、この「二次的著作物に関する権利」の中には「無断で作成されない権利」「無断で利用されない権利」があります。「人格権」は心を守っていますので、ほかには移転できません。他の権利は売買することも譲ることもできます。
 最後に教育関係の方にとって重要な例外規定の話を少しします。例えば教育をうける権利によって、学校の先生はだいたいコピー自由になっています。ただし、本来は了解をとらなければいけないのだけれども、例外的に他人の著作権を無視して使えるのだということを分かっておいていただきたい。例外規定の具体的なものですが、個人が私的使用や学習目的でコピーするのならかまわない。「引用」のためのコピーなどもオーケー。子供たちが調べ学習でレポートを書くときに引用で使う場合、必然性があれば全部コピーしてもかまわない。教育機関であって、非営利目的であれば、授業を担当する者自身が、本人が授業のために必要な部数を限度にコピーしてかまわない。インターネットを授業で使う場合ですが、受信機として使う場合、児童・生徒の学習目的などでは、いろんな例外規定があります。送信機として使う場合は、世界中に発信すると例外規定は「引用」だけ、それ以外は権利者の了解が必要です。著作権制度だけでなくあらゆる人権教育に共通することですが、おかしいなと感じたら“ちょっと待って”と言える感覚だけで十分です。そういう感覚を持っていただけると次のステップに行けるのではないかと思います。
(参考 岡本薫著『教育関係者のためのインターネット時代の著作権 もうひとつの「人権」』全日本社会教育連合会刊)

パソコンを活用した授業例などが報告されたセミナー(私学会館)

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