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記事2003年4月3日 1885号 (5面) 
教育の情報化推進セミナー開く
小・中・高校の情報化推進
(財)日本視聴覚教材センター主催
情報教育の環境整備
実践に取り組む教職員を支援

 新学習指導要領が平成十四年度から全国の小・中学校で全面的に実施され、十五年度からは高校でも学年進行で実施される。これを受けて、三月一日に財団法人日本視聴覚教材センター(有光成徳理事長)の主催、財団法人日本私学教育研究所等の後援で「教育の情報化推進セミナーU」が、東京・市ケ谷の私学会館で開催された。このセミナーは、「総合的な学習の時間」や各教科におけるパソコンやインターネットの活用、高校の教科「情報」の新設などにあわせて、情報教育の環境整備や実践に取り組む教職員を支援する目的で実施されたもの。
 今回は、前回開催の「教育の情報化推進セミナー2002」をさらに発展させ、五つの事例発表と基調講演が行われた。
 内容は、▽事例発表1「情報教育事始め〜教室のアイデア集〜」(東洋英和女学院中高部・橋詰正治教諭)▽事例発表2「3D素材を取り入れた多地点・小集団の連携による教育実践モデルの開発」(メディア教育開発センター・波多野和彦助教授)▽基調講演「教育の情報化について―確かな学力の向上のために」(文部科学省生涯学習政策局学習情報政策課・ソウ原靖課長)▽事例発表3「教科『情報』の出発と課題」(都立墨田川高校・小泉力一教諭)▽事例発表4「慶應義塾幼稚舎の情報教育について」(慶應義塾幼稚舎・鈴木二正・中澤綾子教諭)▽事例発表5「チームで進める情報教育〜本校情報委員会の連携とその実践〜」(星美学園中学高等学校・村松みゆき教諭)。
 当日は全国から公私立の教職員約九十五人が参加。事例発表の後の質疑応答では熱心な質問が飛び交った。今回は、このうち二つの事例発表と基調講演の概要を報告する。
 次回の「教育の情報化推進セミナー2003」は、今年七月二十九日、東京・市ケ谷のアルカディア市ケ谷で開催される。主に著作権やセキュリティーの諸問題についての基調講演、事例発表などが行われる。


【事例発表】
3D素材を取り入れた多地点・小集団の連携による教育実践モデルの開発


情報通信技術各教科で活用
総合的学習における有機的な連携


メディア教育開発センター助教授 波多野和彦氏

 われわれは各教科における情報通信技術の活用と、「総合的な学習の時間」における学習活動を有機的に連携した教育実践モデルの開発を目的として、ネットワークを介した教育用3D教材の効果的な活用方法を模索しています。
 今回は、地図に何かを埋め込み、学習する側は付け加えたり探したりしていけば、教科に使えるものができるのではないかという前提で野外実践を行いました。
 最初にイメージをつくり、次に教師と教材を作りました。
 実践モデルの生徒としては、普段から川へ行って調べ活動をしている生物部の、その普段の活動を複数の学校で交流し協調したらどうかということになりました。協力してもらったのは明治大学付属中野八王子中学・高等学校の生物部の生徒や先生方で、実際に生物部が調査活動に行く浅川の川原(東京都八王子市楢原町)で実践しました。
 時期は十月の後半です。機材は、デジタルカメラと連動しているGPSを三台調達しました。それぞれ自分たちがどこにいるのか写真を撮って、その写真を地図の上に張り付けるためです。
 ネットワークを使ってデータを転送するために、最初は長距離の無線LANを借りましたが、屋外では種々の電波が飛び交っているためうまく通信できないことが分かり、結局、有線に切り替えました。
 浅川の川原では見通しのよい三カ所を選び、上流と中流と下流とで調査しました。水生昆虫を捕ったり、捕った水生昆虫を撮ったり、石の大きさを測ったり、水流や水の透明度を測ったりして、ノートパソコンで記録を取りました。
 一回目はとにかくデータを入れて、帰ってきただけという状態でした。それだけではいけないということで、事前にしておくべきことを明確にしておくこと、そして出てきた問題を解決しておく必要がありました。
 二回目は多摩川の見通しがきかない所で、初対面の生徒たち同士でやりました。ネットワークを通した交流の中で、測定方法が違うことなど、いろいろなことに気づきました。今回の実践では通信用のソフトとして、電子メール、掲示板、ヤフーメッセンジャーを使ったテレビ会議システムを使いました。
 ネットワークやコンピュータの管理については、子供たちにやってもらうという方法もあります。米国ワシントン州のオリンピアの中学・高校では、米政府のジェネレーションホワイというプロジェクトに基づいて、子供たちがコンピュータの管理をしたり教材を作ったりしていました。非常によく生徒たちの力を引き出していたプロジェクトでした。
 3D素材ですが、最近は実物の画像を簡単に取り込むことができるソフトができました。来年度はこの3D素材と普通の図鑑を実際に川での調査に持っていって、効果測定をしようと考えています。ただ、3D素材を精密に作ると、ファイルの容量が数十メガバイト、数ギガバイトに及び、重くて通信では送れない。そうすると圧縮率はどのくらいかということも課題となります。測定条件の統一化については子供たちに発見学習的にやらせるということを考えています。


【事例発表】
情報教育事始め―教室のアイデア集


先生から生徒、生徒から先生へファイル転送機能
ネットワークシステムで必要


東洋英和女学院中高部教諭 橋詰 正治氏

 きょうは主としてハードウエアとしてのコンピュータ教室について私どもの事例をお話ししたいと思います。
 まず基本的なコンセプトとしての、(1)オープンな教室にしよう生徒や教師、卒業生、その他の人がいつでもコンピュータ室をのぞくことができる。(2)生徒を管理しない教育通常、教師卓のモニターで生徒のコンピュータがのぞけるようになっていますが、そういう仕組みは置いてない。教師が回ってみれば生徒のいたずらは分かる。管理や閉鎖はクリエーティブの反対側にあるのではないかという考え方です。
 ネットワークシステムとして必要なのは、まずインターネット環境。それからファイルサーバがどうしても欲しい。先生から生徒へのファイル転送機能。生徒から先生へのファイル転送機能。この四つの機能は最低限必要と思います。逆に言えばこれ以上のシステムは必要ない。
 うちの事例ですが、生徒機の画面には「ごみ箱」と「エクスプローラー」と「マイドキュメント」、「マイコンピュータ」、「マイネットワーク」。それからフォルダが二つだけあります。一つは「先生へ」というフォルダ、もう一つは「生徒のみなさんへ」というフォルダです。このフォルダはショートカットですから、当然、生徒機内には本体はないわけです。機器構成は、IPアドレス管理用のDHCPサーバ、ファイルサーバ、生徒用コンピュータ数十台となっています。ファイルサーバの中には「生徒のみなさんへ」「先生へ」というフォルダを入れておく。そして生徒用コンピュータにはショートカットが表示されているわけです。あとは権限の設定だけをしておけばいい。
 まず「先生へ」というフォルダについては、書き込みは先生も生徒もできるようにしてあります。読み取りについては権限を持っているのは先生だけ。ですから生徒は友達のレポートを見ることはできない。それから「生徒のみなさんへ」フォルダに書き込めるのは先生だけ。読み取りについては教師も生徒も権限を持っている。こういう形に権限を設定しておけば、これで教室の中で起こることは大抵対処できると思います。実際にやってみてこれで困ったということはないですね。
 コンピュータ教室については個別の冷房が不可欠になります。それから教壇はいらない。OAフロアの上に教壇を作ると配線ができない。またノート型コンピュータはどうしても使いますので、すぐつなげることができるように切り替え器を一つ付けておく。
 結論的なことを申し上げますと、新しい道具を使って積極的に教育をしてみようということです。それが創造的な教育の可能性を生み出すに違いないと思ってます。私立学校ではせっかくついている補助金をぜひ使っていただきたい。


【基調講演】
教育の情報化について 確かな学力の向上のために


学校のIT環境整備
私学助成で公立と同じ整備を


文部科学省生涯学習政策局学習情報政策課長 繻エ 靖氏

 学校の情報化を支える施策としては、学校のIT環境の整備があります。二〇〇五年までにおおむねすべての公立学校が高速インターネットに常時接続し、各学級の授業においてコンピュータを活用し、インターネットに接続する計画です。このため地方交付税措置により、コンピュータは各学校のコンピュータ教室には四十二台、普通教室には各二台ずつ配備します。また高速インターネット接続および校内ネットワーク化をすべての公立学校に行う予定です。私立学校につきましては、私学助成で公立学校と同じような環境整備に補助しています。
 次に教員のIT活用指導力の向上を図ることとしています。二〇〇五年度までにおおむねすべての公立学校教員がITを用いて指導できるようにしたいと考えています。教員の研修につきましては、職員室からでも自宅からでも研修を受けることができるようにeラーニングを活用して、IT指導力養成研修プログラムを研究していきたいと考えております。
 また教育用コンテンツの充実としては、二〇〇五年までに最先端の研究成果を素材にした教育用コンテンツを作成し、全国へ普及を図る予定です。現在でも、例えば、NHK3チャンネルの教育放送も一部はネット上で提供しています。
 また教育情報ポータルサイトとして、文部科学省では教育情報ナショナルセンター(NICER=ナイサー)の整備を進めています。すでに三万件のコンテンツがNICERのサイトから使えます。今後、毎年二万件を登録し、平成十七年度までに約十万件の整備を図る予定です。NICERのサイトのトップページ=写真=ですが、キッズ、ティーンズ、先生、大人と四つの入り口があり、その中心はコンテンツ提供、コンテンツ検索となっています。無料ですし、使い勝手のよいものとなっています。
 また教育用コンテンツの活用・促進事業を行っていまして、その一つが教育用コンテンツの活用・高度化事業で、これは普通教室におけるデジタルコンテンツを有効に活用した実践事例を収集し、広く公開するもので、現在十三のコンソーシアムに委託してやっていただいております。自校も参加してみたいという学校には三百万円で委託しております。募集期間は四月から約一カ月間です。もう一つ、インターネット活用教育実践コンクールを行っています。これは、学校教育・社会教育分野におけるインターネットを活用した優れた教育実践事例を表彰するもので、募集期間は七月上旬から九月末までです。

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