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記事2010年1月13日 2158号 (2面) 
中川正春文部科学副大臣が講演
新政権の高等教育政策
高等教育のある程度の需給調整は大事
推進したい共同利用・研究拠点制度

 国庫助成に関する全国私立大学教授会連合中部連絡協議会は恒例の公開講演会を、昨年十二月十二日、愛知大学車道校舎で開催した。今回は「新政権の高等教育政策について」をテーマに中川正春・文部科学副大臣が講演した。共催は愛知大学国庫助成教授会連合学内連絡会。


 「コンクリートから人へ」あるいは「ハードからソフト」へという、われわれがマニフェストに掲げた、今の時代に対する危機感に関しては、改革に移行していかなければならないという段階にきていると思います。
 これからの日本の生きる道筋は、欧州を参考にしながら、東アジアに対して共同体という意識を盛り上げていく、そういう方向性も作り上げていかなくてはいけないと考えています。
 日本と欧米を比較しますと、学部学生数の公私立比率は、日本は全学生数の七七%を私立大学の学生が占めていますが、欧米では州立・国立の学生数のほうが多い。
 各国の大学進学率を比較すると、日本は四四%ですが、韓国は五五%、ニュージーランドやオーストラリアは八五%です。また社会人の入学者の割合を見ると日本はわずか二・七%、OECD(経済協力開発機構)加盟国の二十五歳以上の入学者の割合の平均は二〇・六%です。これを見ると、日本は進学率が上がってくる余地があると思います。
 留学生については、学生総数に占める留学生の割合は、日本は二・六%、OECD加盟国平均は七・三%ですから、日本は低い。博士課程の留学生の割合では日本はやや上がり一六・一%です。
 イギリスのTIMES紙が公表した「世界大学ランキング二〇〇八」で日本の大学の順位を見ると、東京大学は二十二位、京都大学は二十五位。このランキングの指標はいろいろありますが、日本の大学は外国人教員比率、留学生比率がランキング上位の大学に比べて低いということ、アメリカのトップクラスの大学は世界的に展開しているということで、差がついていると考えられます。このため、留学生三十万人計画が出てきて、国内三十カ所に国際化拠点を作って英語で授業を行うなどの取り組みを進めるとして、今年度、十三カ所が決められています。
 しかし、英語で授業をするだけでいいのか、留学生に対してどういう体制がいいのか、問題提起を考えています。
 大学の疲弊状況を見ると、定員未充足の私立大学・短期大学の推移(平成六年度〜二十一年度)から、短大がまず経営的に厳しい状況になり、規制緩和で四年制大学が増加したこともあって私立大学の定員が充足されない状況が出てきたことが分かります。
 これを規模別に見ると、定員一千人以上の大学が定員を上回る入学者をとり、定員の小さなところが定員を満たしていない。地域別では、東京の大学は定員以上の入学者があり、地方に行けば行くほど定員割れで苦しんでいます。特に地方の小さな私立大学にしわ寄せがきています。
 こういうことに対して中央教育審議会がどういう答えを出してきたかというと、一つは再編、それから個性化・役割分担、もう一つは情報公開をしていくなかでの質の確保、ということを中心に意見を重ねてきたわけです。ただ、おそらくこのままの流れで行ったら東京一極集中となり、格差という形で、非常に偏った大学構成になっていくのではないでしょうか。
 特に、地方における高等教育について真剣に考えていこうと思ったら、需給規制のような、ある程度調整していくことが大事だろうと思います。大規模大学がさらにマンモス校になっていくという形でいいのか。そういうことも含めて、根本的な議論をしていかなければいけない段階にきていると思います。
 これについては、私立大学の協会の中でも、この問題をどうコントロールしたらいいのか、主体的に提案していただいて、ぜひお話を聞かせていただきたい。
 中教審の答申(平成十七年「我が国の高等教育の将来像」)では機能別分化として七つの方向性が提起されています。
 海外の場合を見ると、例えば米カリフォルニア州の州立大学は三つに分化しています。UC(ユニバーシティー・オブ・カリフォルニア)は世界と競争していく最先端の研究・教育を行う、CSU(カリフォルニア・ステート・ユニバーシティー)は学部教育を中心にして看護・農学等特定分野でやっていく、CCC(カリフォルニア・コミュニティー・カレッジ)は身近な大学としてやっていく、というような分化です。こういったあり方もわれわれは考えていかなくてはいけません。
 文部科学省はこれまで、大学の機能別分化を促すファンディングとして、A(基礎的経費支出)、C(教員の個別の研究活動に対する競争的資金)、E(学生に対する経済的支援)、B(AとCの中間的なもの)、D(ABCとEの中間的なもの)という形で進めようとしてきましたが、これに対してももう一度、これでいいのか、と問いかけていきたいと思います。
 教育機能の実質化、公的な質保証システムの再構築といった課題は、大学の国際化にも密接に関連していると思います。
 鳩山首相は中国に行って、東アジアの共同体を提唱しています。その時に、大学間を、国境を越えて自由に行き来できるようにすることを提唱しています。これは欧州のエラスムス計画、アメリカの戦略などを念頭に置いたものです。
 それにはお互いの単位をどう評価していくかが重要で、そのためにも日本国内での単位の互換性をしっかり評価できるシステムを作り上げておきたいということです。
 いま東南アジアの大学に欧州勢が押し寄せてきており、エラスムス基準をアジアにおいても当てはめようとしています。そうではなく、われわれで標準を作って、アジアに持っていかなくてはいけません。
 これから推進をしていきたいという事業の一つが、国公私立大学を通じた共同利用・共同研究拠点制度で、研究者コミュニティーネットワーク型とか研究分野型など、共同研究に対して助成していく試みをしていきたいと考えています。
 もう一つは、教育関連施設・設備を共同で使っていく教育関係共同利用拠点制度で、例えば練習船、農場、演習林、留学生関連施設(宿舎など)、SD・FDセンターなどを共同利用する、そんなことも念頭にあります。
 財政支出に関しては、高等教育機関に対する公財政支出の対GDP(国内総生産、二〇〇五年)比が、日本は〇・五%でOECD加盟国中で最下位です。OECD各国平均は一・一%なので、絶対的に資金が足りないというのは大学関係者の皆さんのご指摘の通りです。
 こうした現状を踏まえ政策として掲げていくべきなのは、それなりの力のある人がそれなりの教育を受けることができる国を作っていく、という意味での給付型奨学金を作っていくことだろうと考えています。
 もう一つ、大学経営の基本的な資金を安定させていくことはやっていきたい。ただし、もっともっと合理化できるところはあると考えています。
 並行して、競争的資金の中の研究開発に民間資金を入れていく仕組みを考えていこうと、私の下に懇談会を作って取り組み始めたところです。



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