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記事2024年1月13日 2634号 (2面) 
中央教育審議会第139回教員養成部会開く
教師人材確保のための奨学金返還支援在り方で
2人の有識者からヒアリング

 中央教育審議会初等中等教育分科会の第139回教員養成部会(部会長=秋田喜代美・学習院大学教授)が令和5年12月26日、オンラインにより開催された。今回は、教師人材の確保のための奨学金返還支援の在り方に関して2人の有識者からヒアリングが行われた。  


まず兵庫教育大学の加治佐哲也学長は、大学院生を対象にした奨学金返還支援の仕組みについて発表した。その中で加治佐氏は、学校教育が高度化、複雑化する中で教員の資質能力の向上が喫緊の課題であるものの、教員の大学院修了者の割合は、日本ではOECD平均を下回り、院卒者の教員就職者の割合が減っていることを指摘、中核となる教員は教職大学院修了とし、そこに給付型奨学金(返還免除奨学金)を給付することを提案し、「返還免除により教職員の大学院入学者が増えれば、教職大学院が増設され、教員養成が学部主体から大学院主体へと移る。そうすれば教職の魅力が向上し、質の高い人材を確保できる」と述べた。


大学院修了後の奨学金返還の仕組みは、大学院修了時に返還免除を認定する場合と教員就職後に認定する場合を想定し、学部在学時に貸与された奨学金の返還には、「教職のみを支援の対象とする理由は見いだしにくく、他職種との公平性に欠ける」と指摘。「高等教育の修学支援制度の拡充など、無償化が進展しつつあるため学部から教職大学院に進学し、教員になった者の奨学金の免除を行うべきで、最短5年間で学部卒業と教職大学院修了を可能とする『先取り履修による教職大学院在学期間短縮制度』を活用する大学と学生が増えれば、教職が高度専門職として確立する」と語った。  


次に国立教育政策研究所の濱中義隆・高等教育研究部長が、質の高い教員の確保に向けた奨学金返還支援について話した。濱中氏は教育職の奨学金返還免除制度の復活の可能性について、「学力上位層では、大学進学に家庭の経済状況はほとんど影響していないというデータがあり、優秀な学生の掘り起こし効果は学部段階では期待できない」と説明。「質の高い教育を確保することのメリットが職種による不公平感を上回らない限り、教員を対象にした新たな返還支援策の導入は難しいだろう」と述べた。続けて「根拠となるデータはない」と前置きした上で、「学部生の3分の1が貸与奨学金を利用しており、借入額の増大で大学院進学をちゅうちょすることを避けられるので、高度な専門知識を有した教員となり得る大学院修了者を返還支援の対象にするのは、一定の合理性があるのではないか」と説明した。  


新たな返還支援の方法は、「返還免除である必要はなく、教員の人事権を持つ都道府県などの代理返還の仕組みが望ましい」とした。そして「現在行われている、一定期間その地域に居住、特定の業種に就業などの要件を満たした人に地方公共団体が奨学金返還を支援する取り組みを、公立学校の教員となった人にも適用し、その一部に国による特別交付税の措置はできないか」と提案した。  


この後の委員による審議では、「昨今の教師不足は、大学院卒業まで待っていられない。一人でも多くの学生に教師を目指してもらうために学部段階からの支援は必要。教員の魅力は働き方改革と奨学金返還支援のセットでつくりたい」「現状、教職大学院修了者の9割が教職に就いているので、大きな効果は期待できない」「都道府県による奨学金代理返還は、自治体の財政の格差で額、人数に違いが出て、教員採用の格差につながる」と大学院生からの奨学金返還支援に異論を唱える意見が多数聞かれた。「教員の定員充足だけでなく、競争により教職の高度化を考える必要がある」との意見もあった。また「問題は臨時採用の教師が現場で忙しいため採用試験に受からないことだ。正規の教員を増やすため処遇改善を進めるべきだ」との意見も出された。  


その他、文科省から令和5年度公立学校教員採用試験の実施結果の報告があり、採用倍率は全学種で3・4倍、小学校は2・3倍で過去最低、全学種で倍率は低下したことが明らかになった。


第139回教員養成部会

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